aki_omp2004-11-09

恩田陸の「夜のピクニック」を読了。
★★★★☆
年1回の行事歩行祭が始まった。
歩行祭とはただただ、夜を通して歩きつくすと言うモノ。
その歩行祭を舞台にした、青春ストーリー。





(ネタバレ↓)
これはほぼ映画で言う所のロードムビーと言って良いかも。
むさくるしくて人生に疲れた系のオッサンとかは出てこないけれども、
ある高校生が少しどうにもならない悩みを抱えながら、それをその道中で昇華していく様はロードムビーの様に感じた。
そこに出てくるセリフも気軽く、軽快で無理が無く、若さがあるセリフにかなり楽しく読める。
本編の中心は融と貴子が異母兄弟であると言う問題から、
何気なく感情の摩擦を避ける様にお互いが距離を置いて近づかない様にしている様が、どことなく読んでいる方をノスタルジックな気分にさせるし、
そこから生まれる緊張感が何気ないセリフに読んでて登場人物と同様に一喜一憂してしまう。
それは、中盤辺りで融の誕生日に貴子と「おめでとう、ありがとう」などとやっとの思い出交わした会話の中に現れている様に感じる。
特に融がそれをテープが擦り切れるほどに、何回も頭の中で再生したなどの件はこの言葉にならない感情が中々伝わってきて面白い。




最後の方でアメリカから来た杏奈の弟がその緊張した空間を切り裂くシーンもかなりファンタジックで良い。
ここにあるのは海外からの刺客と言う日常から離れた非日常による日常の破壊者だ。
そこにはどこにも誰にも悪意やマイナスの感情の無いし、そこに来るまでの道中がかなり疲れを伴う一昼夜の作業で疲れきっていたからこそ、面白く読める。
何故ならそれは、良く徹夜などをして朝方になると、何だかワケのワカラン会話をしている事が誰にでもある、そんな時にかなり切実な話題が出てくると、一気にそのマッタリとした空気が無くなると感じるのと同義であるだろう。

そしてその後、貴子が一緒に父親のお墓に行こうなどと言うところは、少しここまで浮ついた様になっていた感のある空気を、本当に一気に現実に引っ張っていく。
そこが自分的にはかなり絶妙のタイミング。
何故なら、読んでいる私もそこの登場人物達どうようこの歩行祭と言うどこか非日常じみたイベントに参加した様な感覚を持っていたからだ。
だから、それに酔ってまるでランナーズハイを感じる様に読書をしていたから、そのお墓に行こうと言うセリフに血肉を持った感慨を感じ取る事が出来たのだ。






読後感もとても良く、どこか爽やかな風が吹き抜けて行く様なそんなお話。
そして、その後彼らがどうやって残り少ない高校最後の時間を過ごすのだろうと思ったほど、魅力的な歩行祭だったと思う。
たまにはこんな爽やかな青春モノも嫌いじゃない