aki_omp2004-10-02

サラ・ウォーターズの「半身」ISBN:4488254020
★★★★
ストーリーは19世紀のイギリスが舞台。
婚期も行き遅れて自分の頭脳を活かす事の出来なかった陰気な女マーガレットはミルバング刑務所で女囚である不思議な女囚シライアと出会う。





ここからは結構ネタバレ





感想は一言で言えば、グロッ、キモッ、エロッ!、です。
それくらい主人公マーガレットの思い込みが激しくて鬱屈してカビ臭い人間性が非魅力的に描かれている。
正直、途中まで少し感情移入しながら読みますが、その生の人間性が吐息、拍動、汗、血液を感じさせるまでに微に細に渡り描かれていくと読んでいてかなりヒク、と言うか一種恐怖さえ感じさせる。
それはこの作者の描写がこのマーガレットと言うキャラをこう言う人間が育つ環境、こう言う人間ならこう言う状況でどう言う点に好意を持ちどう言う点に悪意を持つかと言う事が非常にウマク描かれている事にもその原因はあるのだけど、
この本の形式を日記形式に書かれている点にもそのウマサが見て取れる。


何故なら日記とは、本来は自己内心的には絶対自由であるハズの感情を、
日記にする事によりその思いを文字として閉じ込めると言う行為だ。
つまり日記には、日記とその日記を付ける人との間に支配と被支配の隷属関係が成り立つ。
こう言う隷属関係が成り立つからこそ、マーガレットが支配するのは日記だけと言うマーガレットのとても鬱屈した状況が見れて、それを読んでいる私達はより一層このマーガレットと言う非魅力的なキャラをより深くそれこそ吐息、脈動に至るまで理解し嫌悪(人によっては感情移入)出来るのだ。
本編はそれが見事に機能している。
よって、マーガレットだけは他のキャラよりも深く暗く自己内心の感情が閉じ込められていると言うに近い既視感が見て取れる。



そして、もう一つこの話の魅力としては当然シライアの謎めいたキャラも魅力的だ。
私には霊が見えると言い、自分の中の鬱屈感に囚われたマーガレットの感情をある時は包み込み、ある時は縋りつく。
この二人の間にある恋愛的だけども、ある種隷属的な支配関係も面白く読んでいる方をその肉感的にまでに耽美な緊張で持って支配する事が出来るであろう。


これを読んでいる時、少し萩尾望都の漫画や、P・ジャクソンの映画「乙女の祈り」を少し思い出した。
この話気に入った人は見てみると良いかも。